窓口会計での医療費の一部先払い(分割払い)はアリ? その後の対応は?

春子

先輩! 窓口で患者様が、「手持ちのお金がなくて診察料を払えないんですが、どうすればいいですか」って……

佐奈美先輩

あらあら。そういう時は、いろんな対応方法があるんだけど……今回は、私が対応するわね。

病気や何らかの症状があり診療のために来院した患者が、持ち金の不足などにより会計時に医療費を一部しか支払わないケースがしばしば見受けられます。そんな患者の中には残金を後日持参しきちんと支払う人もいれば、そのまま逃げてしまう人も…。このような際にトラブルに巻き込まれがちなのは受付を担う医療事務です。

医療事務が受けがちな窓口でのトラブルを未然に防げるよう、今回は医療費を一部先払い(分割払い)するケースの対応法を解説します。

そもそも医療費(保険診療)の分割払いは可能?

病院やクリニックなど、医療機関が患者から窓口で受け取る医療費は一括払いが原則です。これは医療機関での窓口会計で患者が直接医療費を支払う場合に、数回に分けての分割払いをすること自体が医療機関にとってはリスクしかないためです。

“保険診療の医療費は分割払いをしてはいけない”という決まりが明確に定められているわけではありませんが、医療機関は​​来院した患者の治療を断ることができない一方で、残念ながら世の中には保険診療での治療費を踏み倒してしまう患者もいるため基本的には認められていないというのが現状です。

医療事務は病院やクリニックの受付を担っているため、窓口会計で医療費の分割払いを希望する患者への対処法を身につけておく必要があります。

病院によっては分割払いが可能なケースも

前述のとおり、保険診療での医療費の分割払いは通常認められていません。しかし、稀に医療機関側が分割払いを認めているケースもあるようです。

例えば、、、

  • 長年通院している個人病院や町医者などで患者と医療機関の間に信頼関係があり、院長が認めた場合
  • 患者側に支払う意欲はあるが当日の持ち金が不足していたため、一部を当日支払って残金は後日支払うことを医療機関側が認めた場合
  • 横柄な患者で病院側が分割払いを認めざるを得なかった場合 など

ただし、このように医療費の分割払いを認める医療機関は、少なからずリスクが生じる可能性もあることを心得ておかなければならないでしょう。

窓口会計での分割払いが認められた場合に注意すること

さまざまな理由により医療機関側が医療費の分割払いを認めた場合、窓口会計を担当するスタッフはいくつかの点に注意しなくてはなりません。逆に言えば、ここのポイントを押さえておくことで患者とのトラブル回避に繋がります。

①残金の支払い期日を明確にする

持ち金不足などで当日は一部しか医療費を支払えない場合は、残金をいつ支払いに来るかを明確にさせます。その際に「念書」や「誓約書」を作成し、書面で残金支払いの約束を取り交わすことが大切です。これらの書面は法的な効力を持つため、万が一そのまま未収になってしまった際に有用であるほか、患者本人に支払いの意志を強く持ってもらうためにも役立ちます。

念書や誓約書を作成した際は患者の署名を必ずもらいましょう。また親族が付き添っている場合には、その方の署名をもらうとなお良いです。

②保険証の確認、患者の特定をする

身元を把握しておくためにも保険証を確認し、患者を特定しておきましょう。

③保険証を忘れた場合は必ず他の対策をとる

保険証が確認できない場合は運転免許証など他の身分証を提示してもらい、患者を特定します。身分証が確認できない場合でも、身元不明にならないようにするために携帯などの電話番号だけは確認しておきます

これは弁護士に依頼した場合に、一定の条件はあるものの電話番号から契約者の氏名や住所を特定することができるためです。また勤務先の名前や連絡先を把握しておくと給与の差し押さえ時などに役立ちます。

Cropped shot of an unrecognizable man filling a document with the help of a financial advisor at home

未払い金を放置している患者がいる場合

上記のような対策をとったにも関わらず、支払い期日になっても来院しなかったり、そのまま患者と連絡が取れなくなってしまったりなどで医療費が未収となってしまった場合には、医療機関側が未収の医療費を回収しなくてはなりません。この未収金の回収作業も医療事務が担うことが多い業務といえます。

医療費は未収のままにしておくと病院やクリニックの経営に関わってきてしまうため、支払い期日を過ぎている未収分に関しては早めに動くことが大切です。医療事務にとっては通常業務に加えての作業となるため負担になりがちですが、未収金の回収方法はさまざまあるので臨機応変に対応していきましょう。

直接対応して任意での支払いを求める

①電話による督促

まず、支払い期日までに支払いがなされなかったときは電話で事情を尋ね、いつなら支払いが可能であるのか確認するのが基本です。未収分の金額が大きい場合や支払い期日まで期間が開いてしまうときには、支払い期日の数日前に確認の連絡を入れておくと良いです。

②文書による催促

電話などによる口頭での督促で医療費が支払われなかった場合には、文書にて督促を行います。ハガキなどによる印刷文書を患者本人に送付するほか、必ず手渡しで配達され同じ文面の文書を3者で保持することになる「内容証明郵便(※)」などを利用して確実に未払いの患者に対して督促を行うことが重要です。また郵送物には配達証明をつけておくと「郵便物など受け取っていない」などの言い訳から逃れることができます。

※日本郵便の一般書留郵便物の内容文書について証明するサービス。いつ、いかなる内容の文書が誰から誰あてに差し出されたかということを、差出人が作成した謄本によって日本郵便が証明する制度

③患者宅への自宅訪問による督促

近隣に在住の患者であれば自宅訪問による督促も効果的です。電話や文書での督促に応じなかった場合は、最終手段として自宅訪問を検討しましょう。患者が引っ越してしまった場合は役所へ住所確認依頼の要望書を提出することで引っ越し先へも出向くことができる場合があります。

弁護士や裁判所を介して回収する

さまざまな手段で任意の支払いを求めたのに効果がなかった場合は法的措置の実行に移るしかありません。法的手段もいくつかあるので、医療機関ごとの最適な手段で未収金を回収しましょう。

①支払督促手続を行う

支払督促とは、裁判所を通じて患者に任意の支払いを督促することです。支払督促書面が裁判所から直接患者宛に発送されることになりますが、通常裁判では必要な証拠の添付が不要であるため、医療機関での未収金の回収に有効な手続きであるといえます。

②催告書を送付する

督促状は未払金がある患者に対して支払いを促す請求書であるのに対し、催告書は法的手段を取る前の最終通告の意味合いを持ちます。催告書は債務(支払い)を履行するよう請求する意思の通知を文書にしたもので、未収金がある患者に送付することで受け取った患者は危機感を覚え、残金の支払いに来ることもあるでしょう。

催告書を送付する際は郵送の記録がつき、且つ公的な証明力を持つ内容証明郵便で送付することが重要です。

③少額訴訟を起こす

少額訴訟は60万円以下の金銭の支払いを求める場合に認められる手続きで、簡易裁判所が迅速に判決を下すことで原則審理1回の期日で即日結審となります。通常訴訟より手続きが簡単で低コストで行えることなどから、未収医療費の回収の際にも非常に使いやすい手続きといえるでしょう。

少額訴訟で弁護士は必要ありませんが、本来出頭する必要がある病院の理事長の代理人として弁護士が出頭することもできます。

また相手側の患者が異議申し立てをした場合には通常の民事訴訟に移行しますが、その際の裁判所が相手の患者の住所地を管轄する裁判所となります。したがって裁判所に出頭するための交通費などを加味した場合に、遠方の患者にもこれらのような支払督促手続を使うかどうかは医療機関側の慎重な判断が必要となります。

④民事調停を行う

民事調停は裁判所に選任された調停委員という民間人が未払いの患者と医療機関の間を取り持ち、裁判官のサポートを受けながら話し合いにより解決を図る制度です。調停によって合意に達した際には、その内容が記された調停調書が作成されます。

分割払いの合意など現状に応じた解決が可能であるほか、調停調書は裁判の判決と同じ効力を持つため、医療費の未収金を回収したい際に役立ちます。

⑤強制執行を申し立てる

強制執行を申し立てることで未払い患者の財産を差し押さえることができるため、結果的に未収の医療費を回収することができます。ただし、強制執行は支払督促や少額訴訟などを経て得た書類を使用するため、あくまでも最終手段として考えた方がよいでしょう。

また強制執行の申し立てをする際は相手側(未払い患者)の財産の所在を特定する必要がありますが、相手側の財産は財産開示手続という制度を利用することで調べることができるので弁護士に相談してみましょう。

⑥保険者の強制徴収制度を利用する

保険診療(6歳以上70歳未満)の場合、医療費は患者が3割(一部負担金)、保険者が7割を負担しますが、患者が何らかの理由により一部負担金を支払わないことがあります。しかし、実は医療機関が回収できなかった一部負担金は医療機関に代わって保険者が徴収するという法律があるため、医療機関は未収金の回収ができるのです。(国民健康保険法 第四十二条第2項 参照)

しかし、この保険者の強制徴収制度は医療機関側が支払の督促を促し、十分に手を尽くしたのにも関わらず支払われなかった場合に利用可能とされています。そのため、支払督促や催告書を送付したにも関わらず医療費が支払われなかった場合などに利用することをお勧めします。この際、必ずここまでに至った経緯を時系列で全て文章に残しておきましょう。この強制徴収制度の適用は審査が厳しいため、証拠を残しておくことが後々非常に重要になります。

ただし、これは保険診療の場合のみのため、自費の未収金には適用できません。

窓口会計での分割払いは基本的には応じない!

窓口会計での医療費の分割払いは医療機関側には何のメリットもないので基本的には避けるべきものです。未収金を発生させないためにも、緊急受診でない場合は未収金が発生しやすい自己負担項目を行う前に必ず患者に金額の提示を行うなどの対策を打つことが重要になってきます。

また会計時に持ち金不足で支払えないケースを避けるためにも、医療機関側は会計システムにクレジットカードやデビットカードによる支払いの導入を検討するとよいでしょう。

医療費の未収が発生するのとしないのでは、医療事務の負担だけでなく医療機関の経営状況にも大きく関わってくるので未然に防ぐことが大切です。また、ここでご紹介した未収金の回収方法は支払い拒否の患者にも有用ですので、医療事務の方は一通りを覚えておくといざという時にスムーズに対応できます。