保険証がない場合の支払いはどうなる? 適切な対処法と対策

春子

先輩。さっき窓口で保険証を持っていない患者様が来られて質問をいただいたのですが、知識不足でうまくお答えできなくて、帰ってしまわれました……

佐奈美先輩

保険証を忘れたり、持って来ない患者様って意外と多いのよね。保険証がない場合の支払いについて、勉強しましょうか。

医療事務の仕事に携わる人であれば遭遇する機会の多い、保険証忘れ。再度来院の際に保険証を持ってきてもらえれば済む問題ではありますが、いつまでたっても持って来てもらえないパターンも少なくありません。

この記事では、このような事態が起こった場合どの様な問題に発展するのかについて説明していきます。またこのようなトラブルを未然に防ぐためには、スタッフ全員が適切な知識をもって対応できることが大切です。したがって、保険証がない場合の支払いについての基礎知識についてもお伝えしていきます。

保険証がない場合の支払いで起こる問題

保険証を忘れた場合はクリニック・病院での支払いは全額“自費負担”です。保険証をお持ちいただけるまでは十割の全額を患者がすべて負担したままの状態になり、患者だけが損をしてしまう状態になります。また自費のレセプトはすぐに作成ができないため、一時的とはいえ金銭的な負担は軽くありません。

実際に、怪我をしたため保険証を持たず、とりいそぎ近くの病院で治療を受けて自費で支払ったまま終了。紹介状を持って、改めて地元の医療機関で治療を受けるといった流れで、本来は自分が負担しなくても良い部分まで支払ったまま忘れてしまうケースは少なくありません。自己責任といえばそうかもしれませんが、このようなケースがあまりに多いことはもちろん、医療機関側に負担がないためか、特別不思議に思わないスタッフが少なくない点も医療機関の在り方として問題といえるでしょう。

このような問題を改善するためには医療機関側の意識だけでなく、患者への注意喚起や適切な説明が重要になります。とはいえ、こういったことに関して知識の少ない患者に理解を求めるためには、そもそもスタッフ全員が内容をきちんと把握していなければなりません。

万が一このようなケースの対応をしなければならなくなった際、パニックにならないためにもスタッフが行える適切な対応を確認しておきましょう。

保険証がない場合の適切な“支払い”

保険証がない場合の支払いの流れ

  1. 自費登録し、診療費を「未収」に設定
  2. 一旦保証金を預かる(※上限金は医療機関による)、または自費精算してもらう

〇保険証が提示されない場合の預り金の目安は1万円から3万円。合計金額が1万円より下回る場合の対応は自費精算に。治療費の合計が1万円を超える場合は保証金をお預かりすることがほとんど

〇保証金を支払いしたきり保険証を持ってこない患者も多々いるので上限金はある程度多めに設定する必要がある

〇有効な保険証を持っているが忘れた、紛失中、発行手続き中など、どのようなケースでも保険証が手元にない場合の対応はここまでに説明した通りで統一

※ただし、預り金が発生するのは保険証がない場合のみではありません。

《補足情報》
保険証を提示したとしても、時間外は預かり金が必要になります。時間外は外部に委託している病院、また保険点数計算のできる医療事務スタッフが不在の際は、預り金(保証金)を頂戴し、次の日に次回来院時精算の対応をとることになります。そのため、患者から事前連絡を受けた際などは“時間外は保険証提示しても預り金が必要になる”旨の説明を徹底しましょう。

例えば自己負担初診料が870円のところ、深夜は2300円になるなど、時間外や深夜の治療費は高額です。そのため中には預り金だけを支払い、精算をしに来てくれない患者もいます。苦肉の策ではありますが、このような事態を避けるため時間外や深夜帯の治療については預り金の設定を3万程度に設定しておくのが無難でしょう。

ただし、診察前に説明をして一度は納得してもらえても治療後に「やっぱり支払いがむずかしい」と仰る患者もいます。その際は出せる金額を伺い、保証金にするといったケースもあるので、その都度イレギュラーな対応を求められることも少なくありません。その後の催促に関しては、すべて医事課が行うことになります。

保険証がない場合の適切な“返金”

「保証金」にて対応した場合

患者に保証金の証明書と保険証を持参いただき、確認します。自費精算や保証金でお預かりした金額から保険点数に応じて内容を修正して差額をお返し、もしくは頂戴します。

保証金の証明書をもってきてもらえなかった場合は、患者に“証明書は持参してないが医療機関側は返金しました”という内容の書類「返金受領証」に署名してもらいます。

「自費精算」にて対応した場合

自費精算に関しては、ご自身で保険者へ請求をかけるため精算時に診療報酬明細書(レセプト)を作成して渡します。その後の返金に必要な対応は患者自身で行うため、医療機関側としての返金手続きは必要ありません。この場合は患者自身がレセプトを保険者へ提出したのち、保険者から7割の金額が返金されます。

《補足情報》保険適用されている治療のレセプトについては、医療機関側は患者へお渡しできません。医療機関で作成され、支払基金や国保連合会へ送ってしまったレセプトの原本は送り先側のものになります。そのため医療機関側に残ったものはただの写しにしかならず、原本は支払基金、国保連合会の持ち物なので、レセプトが欲しい場合は患者様に保険者へ請求してもらうことになります。
また、それとは別に診療明細書に関しては毎回会計の度に領収書と一緒にお渡ししています。(診療明細書は義務付けされている)

保証金で対応した後、再び保険証をもってご来院いただけなかった場合の対応については、基本的に医療機関側がその都度ケースに応じて処置を決定します。対応できるスタッフがいれば、レセプト請求時効年(原則5年)まで請求可能です。

ただし住所や電話番号が異なるなど追えないまま期限が来てしまう可能性や、そもそも一人ひとりを長期間追っていられないことを考えると医療機関側が損をする可能性が高いため、しっかりと対策をして起こり得るトラブルに備えるのが得策でしょう。

オンライン資格確認の導入で保険証忘れが減る未来に

医療機関側としては毎月、月初めの受診時に保険証の提示を義務付けていますが、それでも保険証忘れはかなりの頻度で発生します。正直、患者の意識によるものなので病院側として保険証忘れ自体を防ぐために行える対策はないに等しいのですが、その後の対応次第では未収金などの問題を防げる可能性も十分にあります。

そのためには患者が保険証を持ってこなかった際、さまざまなケースに発展することに備えて、自費にするか保証金にするか、また患者が通院されるかなど前もって考えることが大切です。保険証を持参いただけていない旨を医師やコメディカル部門などに共有しておく、どのような検査が控えているかを予め患者に説明する、患者が支払える金額や調剤のことを考慮して保証金と自費どちらにせよ適切な金額を設定するなど、トラブルや損害を未然に防ぐための対策を徹底しましょう。

2023年3月の現時点では、医療機関側が患者の加入している医療保険や自己負担減額などの資格情報を確認できる“オンライン資格確認”が導入(※1)されています。義務化(※2)は同年4月なのでまだまだ定着はしていませんが、オンライン資格確認が浸透すれば保険証の確認頻度も減るかと思われます。同時に期限切れの保険証による受診で発生する過誤請求や手入力による手間などの事務コストもかなり削減されるはずなので、保険証忘れによるさまざまな問題の展望は明るいといえるのではないでしょうか。

※1:勤務先からの保険証発行がなくなり、保険証が欲しい従業員のみ発行に。保険証ではなくマイナンバーカードで受診することになります。
※2:医療機関の準備遅延を考慮し、令和4年度末時点で止む終えない事情がある医療機関、薬局は、期限付きの経過措置が設けられました。詳細は以下リンク先にてご確認ください。
https://www.iryohokenjyoho-portalsite.jp/post-21.html#keikasoti

参考文献・参考資料