医療事務のいろは【診療報酬・治療費の計算ルール】

複雑な構造や定期的な改定から、医療従事者であっても簡単には理解しきれない「診療報酬」の計算。さらに、実際に患者に請求する「治療費」とはまた計算方法が違うため、医療従事者にとっては難易度の高い問題といえるでしょう。

今回はそんな診療報酬や治療費計算のルールについてくわしく説明します。ぜひ参考にしてみてください。

保険診療、診療報酬について

医療保険を使って診察や治療を行うことを「保険診療」といいます。国民が日頃利用している病院における診察や検査の料金、薬の値段は、すべて保険診療のもと国によって定められていますが、この値段のことを「診療報酬」と呼びます。

この基準は2年に一度、厚生労働省の諮問機関である中央社会保険医療協議会にて改定されます。国の意向によって特定の分野の料金が変動すれば、医療機関としては決められた料金表にあわせて採算が合うように変わらざるを得ません。そのため、診療報酬の改定は医療機関の収入に直結するといえるでしょう。

はるこさん

診療報酬の計算はむずかしいってお話もよく聞くので、ちょっと身構えちゃいますね…。

さなみさん

簡単よ!って言ってあげたいところだけど…

たしかに、医療従事者でも簡単には理解できないくらい複雑な点もあるわ。

はるこさん

治療費の支払いはトラブルも招きやすいところだから、より慎重に扱わないといけないし…。わたしにはまだまだハードルが高いかもしれません…。

さなみさん

気後れしちゃうのも分かるわ。

でも不安がある人もしっかりと理解できるように、丁寧に説明していくから安心して!

出来るだけ分かりやすくするために、例として一部簡略化するところもあるから、実際の値段とは少しずれが生じる可能性があるってことも念頭に置いておいてね。

はるこさん

サナミ先輩、ありがとうございます…!

しっかり覚えられるように頑張りますね!

診療報酬計算の基本

診療報酬は点数で表されます。「1点=10円」と決められているので、“点数を10倍したものが料金”になります。

《例》
診療報酬を100点とすると、100×10=1000円が料金となる。

さらに料金のうちの何割を自費で払うか(負担率)は保険の種類によって定められているので、実際に支払う料金は、これに負担率をかけた金額になります。

《例》
負担率が3割のサラリーマンの場合は、1000×0.3=300円が窓口での支払額になる。

 また料金は、病気の状態に関わらず必要な基本料金があります。そこに病気の状態によって変化する検査や画像などの料金を足したものが合計金額です。ただし、この基本料金には各医療機関の体制に応じた料金(加算)が加えられる場合もあります。

例》
夜中や休日に診察を受ける際、一部医療機関の種別(※)によって生じる差額など。

※入院用のベッド数が20床以上あるところは病院、19床以下の施設を診療所と呼びます。「○○医院」や「○○クリニック」と名の付く医療機関は、診療報酬上では「診療所」に分類されます。病院は200床以上の大病院と200床未満の中小病院に分けられ、診療所、大病院、中小病院で基本料金に違いが生じることも。病院は、入院している患者さんの病気の程度によっても分けられているため、入院にかかる費用に差が生じる場合もあります。

《診療報酬の基本的な考え方のおさらい》

▼診療報酬=病気の料金表

▼診療報酬の1点=10円

▼支払い=料金の合計×保険の負担率

▼料金=基本料金+検査・画像・リハビリ・処方などの料金

▼基本料金は医療機関の種別で変わる可能性がある 
1)診療所:入院施設がないか、19人までしか入院できない(19床以下) 
2)中小病院:20人以上が入院できる。ベッド数が20~199床まで 
3)大病院:ベッド数が200床以上

日本の医療保険について

〇社会保険の仕組み

日本の医療制度は「社会保険方式」を採用しています。保険料を支払った人が給付を受けられる仕組みで、すべての国民の加入が法律で義務づけられています。保険料は、民間保険のように病気であるかなどで負担金が変わることはなく、賃金などの負担能力に応じて決まります。社会保険の財源は本人だけでなく、職場の事業主、国や地方公共団体が負担しています。

保険料を集めて保険を運営する団体は保険者と呼ばれ、国民健康保険では市町村が、会社員の保険(組合健保)では企業の健康保険組合が保険者になります。保険者に対して、保険を受ける人は被保険者と呼ばれ、被保険者は所得に応じた保険料を納めている証明として「被保険者証(保険証)」を受けとります。

〇診療報酬証明書(レセプト)と審査支払機関

患者が医療機関を受診したときは、料金の一部を負担金としてその場で支払います。一般的にはこの際に一部負担する金額のことを「診療費・治療費」と位置づけることがほとんどでしょう。

医療機関では患者の診断名や検査、治療の内容、料金をまとめた明細書である「診療報酬証明書(レセプト)」を作成し、一か月ごとに集計して審査支払機関に提出します。社会保険では「社会保険診療報酬支払基金」、国民保険では「国民健康保険団体連合会」が審査支払機関となります。

この機関では病院が請求した金額が妥当かどうかを点検して、審査後の金額を保険者に請求します。保険者は医療機関から請求された金額をもう一度点検して、審査支払機関を通じて病院へ支払います。

〇保険診療と自由診療

外来・入院・検査・手術・薬など、保険を使う医療のすべての値段は、診療報酬として国によって決められています。国が決めた公定価格のもとで、保険を使って医療を行うことを「保険診療」といいます。対して、保険が使えない医療については公定価格が定められていないので、自由に料金を決めて良いことになります。これを「自由診療」といい、自由診療の際には自費請求が必要です。

自費請求についてくわしく説明している記事もありますので、気になる方は併せてチェックしてみてください。

▼関連記事

誰も教えてくれない医療事務の実情【自費請求の説明】

また保険範囲内の分は保険で払い、範囲外の分は自費で払う「混合診療」という概念もありますが、原則的には認められていません

《気をつけるべき点》

日本においては、健康保険の範囲内の診療と範囲を超えた診療が同時に行われた場合でも、“範囲外の診療に関する費用を患者から徴収すること”が禁止されています。万が一、患者から費用を別途徴収することがあれば、その疾病に関する一連の診療費用が初診に遡って「自由診療」として全額患者さん負担になってしまうため、医療を提供する側としてもこのようなケースについては目を光らせておく必要があります。

〇後期高齢者医療保険

75歳以上の方は「後期高齢者医療保険」の対象になります。この保険には75歳以上のすべての人が加入し、これまで国保や社保に分かれていた老人保険制度が一本化され、独立した保険として運営されます。

各都道府県内の全市町村が一体となった「広域連合」が保険を運営しますが、保険料の徴収は市町村が行うため、保険料の支払いや届け出、申請などの窓口は市・区役所、町村の役場になります。

保険料は広域連合ごとに決まり、所得に応じて負担する所得割額と加入者が均等に負担する頭割額の合計です。保険料は年金から天引きされ、原則として加入者全員に支払い義務があります。窓口での料金の負担額は基本1割ですが、一定以上の所得のある世帯の方は2割、もしくは3割負担になります。自己負担の限度額は今までと変わりません。

治療費(患者負担分)計算のルール

ここまでは診療報酬や日本の保険制度など、会計業務を行う上で必要なことについて触れてきましたが、ここからは実践に役立つ“治療費の計算方法”について紹介していきます。

表を用いながら計算例の解説をしていくので、ぜひ参考にしてみてください。

〇会計表(例)

※こちらでは分かりやすいようひと月にまとめていますが、実際には受診日ごとに計算して会計します。受診日ごとに「点数×3」の計算をし、四捨五入した点数で会計しています。

▼社会保険(本人)の患者さんで、年齢31歳の場合

会計表【外来】  No.1     受診者名 沖田春子




医 在


理 宅

調


調



手 麻
術 酔
薬剤検 病
査 理
判断料薬剤


薬剤




12/1288150240678
1201,233
12/6731010×411421415825
125
814生(1)144
B.V
70
1381
1,549
12/1073103×51142158174
12/1573103×1011426510
28×18277
12/277352125
12月分(5日分)  2,635 点

実際に計算してみると…

▼社会保険(本人)の患者さんで、年齢31歳の場合

①点数の合計 2,635点

②1点を10円として換算すると 26,350円

③患者負担率を「②」の金額に乗算する社会保険なので、負担率は3割

 26,350円 × 3割(0.3)= 7,905円④7,905円の1の位を四捨五入した金額 7,910円 がお支払いいただく医療費

適切な会計からより良い病院づくりを

これまでお伝えしている通り、治療費の計算は患者の負担率や医療機関によって変わるため複雑です。しかし、料金にまつわる問題は医療機関側、患者側どちらにとっても重要な部分なので、ルールをしっかりと把握して正確さを担保しなくてはなりません。

私たち医療従事者にとっては1日何十、何百とある会計業務でも、診療に訪れる人にとっては重要な一回です。そこで問題が生じれば病院の印象が悪くなり、患者の離脱にもつながりかねません。一度習ったけど不安だな…と思うようなことは「このように対応して大丈夫ですか?」などと、同僚や上司へ簡単に事前確認を行うとよいでしょう。

またケアレスミスは慣れてきた頃に起きやすいため、各項目を反復してチェックすることも重要です。まだ会計業務は覚えたてという方も、会計の教育中というベテランさんも、それぞれこの記事を活かしていただければ幸いです。