医療費の未収金が発生! 患者さまへの回収方法と対策

近年、医療機関では未払い医療費の増加が問題の一つとなっています。未払いの医療費があると病院経営に支障をきたす恐れがあるにも関わらず、医療機関側から何かしらの対応をしなければ支払ってもらえないことがほとんどというのが現状です。

さらに未払いの医療費には時効があり、それを過ぎると医療費の請求権が消滅してしまうため未収金が発生した場合には速やかに回収対応を行わなくてはなりません。そこで今回は未収金が発生した場合の対応方法をご紹介します。

未収金問題は深刻化している!?

年々、病院やクリニックが増え続ける中、どの医療機関でも医療費の未収金が発生し、回収に苦戦している現状があります。医療費が支払えない(支払わない)理由は人によって様々ですが、その背景として考えられることがいくつかあります。

①診療報酬改定により患者の負担する割合が増えた

診療報酬が改定されたために医療費を自己負担する割合が増えてしまい、医療機関を受診しても経済的な理由で支払いが滞ってしまう、または増加した自己負担額に対する支払能力がないケースがあります。近年の未収金の大部分がこのケースに該当するといっても過言ではありません。

②低所得者層の増加

正社員やフルタイムで働いているにも関わらず所得が少ない、定職に就いていない、または高齢者などの理由で収入が低いといった低所得者層が増えているため、①と同様に経済的な理由で支払うことができなくなるケースがあります。

③医療サービスへの不満を原因とする支払いの拒否

最近では受けた診療内容や治療に納得がいかない場合や医療機関への不信感などを理由に支払いを拒否するケースが増加しています。これは近年、患者の権利意識が向上しているためと考えられるでしょう。

④​​医療機関側の責任により発生する未収金

この未収金は救急・緊急の受診や特別・特殊な検査を行ったために患者が手持ち現金を持っていなかったなど、致し方ない場合が多いといえるでしょう。また、医療機関側の診療報酬算定の間違いや請求漏れによる追加請求で未収金が発生する場合もあります。

医療未収金の分類

医療費の未収金にも以下のようにいくつかの分類があります。どんな分類があるのか知っておくと回収時に役立ちます。

  • 患者の窓口負担金
  • 返戻・過誤未収金(再請求による)
  • 自賠責・生活保護・労災関連未収金(未請求による)

この記事で解説する未収金は主に患者の窓口負担金です。再請求による返戻・過誤未収金は、失効した保険証を提示して診療を受けた患者(保険資格を喪失した患者)がいた場合に医療機関がその失効している保険証に基づいて保険請求を実施したなどのケースです。この場合は病院窓口での直接対応にはなりませんが、そのようなケースも起こり得ることを覚えておきましょう。

病院やクリニックに発生する医療未収金の種類

患者の窓口負担金の医療未収金には種類があり、支払われなかった原因もそれぞれ異なります。ここでは医療機関で実際によく見られるケースをご紹介します。

入院医療費の未払い

何らかの疾患や怪我などで入院を強いられたものの、入院にかかった医療費を支払えないケースです。入院医療費の未払いは様々な事情により支払能力がないという理由が最も多くの割合を占めます。

定期通院患者の外来医療費の未払い

定期的に通院しているにも関わらず、保険証を確認できないまま外来受診を継続していたために未払負担金が累積してしまうことがあります。

夜間・休日受診の患者負担金の未払い

治療費を計算せずに預り金で処理したために清算未了の間、未収金として残るケースです。

緊急受診による未払い

救急などで緊急受診したものの住所等の連絡先が不明確だったために後日連絡が取れなくなってしまい、医療費が未収となる場合があります。

医療未収金の回収方法はさまざま

医療未収金が発生してしまったら速やかに回収しなくてはなりません。回収方法はいくつかあるので患者の反応を見ながら段階を経て対応していくとよいでしょう。

直接対応して任意での支払いを求める

①口頭による督促

医療未収金が発生したら、まずは窓口での督促を行います。この場合は病院窓口にて患者に直接、口頭で支払いを求めます。

②電話による督促

医療未収金が発生してから患者が病院窓口に来なくなってしまった場合、電話による督促を行います。

③文書による催促

患者が窓口に来ない、電話が繋がらない、または①と②を経ても医療未収金が支払われない場合は内容証明郵便などの封書やハガキなどによる印刷文書を患者本人に送付し、書面にて督促を行います。督促に使用する文書は法的効力を持つものもあるため、より有効的になると考えられます。

④患者宅への自宅訪問による督促

任意で支払いを求める場合の最終手段といってもよいでしょう。旅先などで緊急受診し未収となることもあるので、患者の自宅は病院付近であるとは限りません。自宅訪問するかどうかは交通費などの費用と回収する医療費の兼ね合いを考慮するなどし、各医療機関で判断します。

佐奈美先輩

そういえば以前、患者さんのご自宅を訪問しようと思ったら患者さんが引っ越しちゃってたことがあったわ。

春子

えー!それは困りますね。

そういう場合はどうすればいいのですか・・・??

佐奈美先輩

万が一、患者さんが引っ越していた場合は役所へ住所確認依頼要望書を提出して、引っ越し先へも出向かなくちゃならなくなるの。

あの時は本当に大変だったわ・・・。

弁護士や裁判所を介して回収する

窓口での支払い拒否や音信不通時など、任意での支払いを求めることができない場合には弁護士や裁判所を介して回収することとなります。その際の主な流れ(段階)は以下の通りです。詳しくは弁護士や裁判所と相談しながら進めるとよいでしょう。

  1. 「催告状」を送付する
  2. 「少額訴訟」を起こす
  3. 裁判所を介し「督促状」を送付する
  4. 「民事調停」を行う
  5. 「強制執行」を申し立てる
  6. 「保険者の強制徴収制度」を利用する(※)

※​​医療機関が回収できない場合、一部負担金は医療機関に代わって保険者が徴収するという法律がある
「国民健康保険法」第四十二条第2項 参照
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=333AC0000000192

ここに注意!

他の金銭債権と同様に、医療費にも時効があります。令和2年4月1日施行の民法改正により、保険医療機関における診療報酬請求権の消滅時効は原則5年と規定されました。

令和2年4月1日以降に生じた債権は消滅時効5年(新民法)ですが、令和2年3月31日以前に生じた債権の場合は旧民法が適用されるため3年となるので注意が必要です。

医療未収金を発生させないためには

様々な対策をとることで医療費未収金の発生を未然に防ぐことができます。以下のような対策を参考に、各医療機関ごとにどのように対応していくかをしっかりと決めておくことが大切です。

保険証の確認を怠らない

月1回以上の保険証の確認は基本中の基本です。定期通院の外来患者に関しても“月初めには必ず保険証を確認する”ということが重要です。また、救急などの入院患者に関しては入院中は保険証を預かったり、入院時だけでなく退院時にも保険証を確認したりするなどの対策をとっておくとよいでしょう。

また、救急外来などで保険証を持ち合わせていない場合などには他のもので必ず身分を確認し、きちんと控えておくことが重要です。

  1. 運転免許証などの身分証を提示してもらう
  2. 携帯電話の番号など連絡先を把握しておく
  3. 勤務先についても名前や連絡先を把握しておくとなお良い

預り金や保証金を徴収する

救急や外来などで保険証を携帯していない場合や、保険資格を喪失し保険証を所持していない場合などは診療前に預かり金を徴収するとよいでしょう。また、入院費など患者の窓口負担額が高額になると予想される場合には、事前に保証金を徴収するなどの対策をとりましょう。

入院時に誓約書(連帯保証人の自筆署名付き)などを導入

入院時に入院費の支払いについての規定が含まれた内容の誓約書を導入することで未収トラブルを予防することができます。この際には患者本人だけでなく連帯保証人を立て、署名をもらっておくことでより効果的になります。

医療費の事前公表・説明

診療や治療を始める前に予めどのくらいの医療費がかかるのか、どのような内容のものを実施するのかを患者に明確に説明し、患者が納得したうえで医療サービスの提供を始めるようにすることで支払い拒否の予防に繋がります。

クレジットカードやデビットカードによる支払いを導入する

医療機関の会計システムが現金支払いのみの場合、持ち金不足による未払いの発生が多くなってしまいます。医療機関側でクレジットカードやデビットカードを用いた支払い方法を導入することで、診療当日の持ち金不足による医療費の未払いは減ることが考えられます。

医療未収金を防いで経営安定を目指しましょう

医療未収金は様々な手段で回収できるとはいえ、法的手段など手間や時間、費用がかかるような回収方法は使いたくないものです。そのためには未収金が発生しないようにきちんと対策をとっておくことが大切といえます。また、未収金の回収方法や未払いを回避するための対策方法を院内で検討し、徹底していくことによって病院の経営安定にも繋がっていくでしょう。医療未収金の回収は主に医事課の担当者が扱うことになるので、これらの事態にまだ直面していない担当者も万が一のために学んでおくと安心です。

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