さまざまな理由により生活に困窮する方が受給できる「生活保護制度」。日本国民にとってはとてもありがたい社会保障ですが、“生活保護を受けると医療費が一切かからない”という誤った認識が浸透しているため医療機関での支払い時にトラブルが起こることもしばしば…。
生活保護受給者の場合、確かにおおよその医療費は国が負担する形になるものの、実際には自己負担での支払いが発生する場合もあります。このような正確な情報を医療機関側がしっかりと把握出来ていなければ患者に説明ができません。いざトラブルが起こった際にきちんと対応できるよう、医療機関側としても正しい認識をおさらいしておく必要があります。
そこで今回は生活保護制度による医療費の正しい認識、また医療機関側が行うべき対策について解説していきます。
目次
生活保護受給者の医療費負担の仕組み
生活保護制度とは、生活に困窮する方に対し“その困窮の程度に応じて必要な保護を行い、健康で文化的な最低限度の生活を保障するとともに自立を助長すること”を目的とし、生活保護法をもとに制定された制度のことを指します。
生活保護受給者のための医療制度
生活保護法により定められた扶助の一つとして、困窮のため最低限度の生活を維持することのできない方に対して医療の給付を行うのが「医療扶助」です。
国民の医療を保障する制度としては、本法のほか健康保険法、国民健康保険法等の医療保険制度、感染症の予防および感染症の患者に対する医療に関する法律、障害者総合支援法などがありますが、これらの制度はいずれも適用範囲が限られていることから最終的な医療の保障は医療扶助が行うことになります。また医療扶助は各市町村を担当する福祉事務所が生活保護法による指定を受けた医療機関に委託して行われています。
医療扶助の適用範囲
生活保護受給者においては、以下のようにさまざまな負担を医療扶助で請け負ってもらえます。
生活保護受給者に起こりやすい“支払い問題”
ここまでに説明したような仕組みから、生活保護受給者はほとんどの医療費を国に負担してもらえることになっていますが、冒頭でもお伝えした通り実際には自己負担で支払いが発生する場合もあります。
例えば個室などを希望する際の差額ベッド代、医療機関側が決定した入院中のアメニティグッズ、歯科におけるセラミック治療やホワイトニングなど、自由診療による保険適用外の治療や先進医療などによる治療も医療扶助は適用されないため、実費での支払いが必要です。(※)また喧嘩など、第三者行為が原因の場合も医療扶助が適用されないこともあります。
※必ず、事前に文章にて同意が必要になります。
そもそも生活保護の受給者が医療扶助を受ける場合、必ず指定医療機関で受診が必要です。このような実態を知らずにいる方が多いため、医療扶助範囲外の費用の支払いを拒否されるケースも少なくありません。
トラブルを避けるための対策
生活保護受給者による支払いのトラブルを避けるためには、いくつか事前に行える対策があります
後者の対策については極端な選択であるようにも見受けられますが、実際に生活保護を受ける患者とのトラブルは後を絶たないため、クリニック開業時に生活保護受給者は扱わない旨を行政(福祉課)に申し出ている医療機関も多くなっているのが現状です。
もちろん開業時でなくとも生活保護に基づく指定医療機関の業務は休止または廃止を申請することも可能です。詳しくは、医療機関の所在地を所管する都道府県・指定都市・中核市に問い合わせてみてください。
正しい認識と適切な対応でトラブルを防ぐ
認識の曖昧さにより何かとトラブルになりやすい生活保護受給者への対応。再三お伝えしてしている通り、生活保護制度は生活に困窮する方が受給できる大切な社会保障であり、なくてはならない制度です。
トラブルを避けるための対策として指定医療機関の休止なども提案しましたが、生活保護制度自体が悪いわけではないので一概に邪険にするのではなく、できる限りトラブルを避けつつ指定医療機関として適切な対応をすることが理想的です。
患者に対して適切な説明を行えるようクリニック側の認知を徹底する、治療前に患者への注意喚起を徹底するなどさまざまな工夫を重ね、無駄なトラブルが発生する前にしっかり対策を打っておくことが大切でしょう。
交通事故の患者が生活保護受給者である場合は、賠償金を得たことにより保護費を返還しなくてはならない「費用返還義務」が発生するケースがあるため、損保側が一括請求すべきか否か考慮する必要があります。
損害賠償請求の権利を得たことにより資金力があると考えられるので、保護費と損害賠償金を比べて低い額を返還することになります。返還しても手元に賠償金が残った場合は、生活保護を一旦打ち切りとなるケースもあり、福祉課と損保の話し合いになることもあります。