医療事務の仕事には欠かせない「カルテ(診療録)」は、患者の情報を管理するうえで大切な役割を果たすツールです。日常的に触れるものであると同時に繊細な取り扱いが必要なものでもあるため、その意義や記載内容、記載方法などを正確に把握しておく必要があります。
そこで今回は、そんなカルテ(診療録)の基本情報について詳しくまとめてみました。
目次
カルテ(診療録)とは
カルテ(診療録)とは、医師によって患者の診療内容や経過などが記録された文書のことです。このほかにも診療に関する諸記録として、以下のような内容が記録されています。
一般的には、医師による診療録とこれらのような諸記録をあわせて「診療記録」と呼ぶの。
なるほど…!
その患者さんの診療に関するさまざまな情報を記録しておくためのツールなんですね。
ほかにも役割があったりするんですか?
もちろん!
カルテは診療報酬請求の根拠でもあるのよ。
だからこそカルテの内容と診療報酬明細書の請求内容は、必ず一致していなければならないの。
これが守られていないと個別指導(※)で指導の対象になってしまうのよ。
※厚生局が医療機関や保険医に対して、保険診療や診療費の請求が適切に行えるように指導すること。
もし間違えたらと思うと恐ろしいです…。
不正請求などのミスを防ぐためにも、診療事実に忠実な内容の記載を徹底して、注意深く取り扱う必要がありますね!
カルテを書く目的
カルテの記載には、以下のようにさまざまな目的があります。
1)実臨床で必要になるため
カルテには現在に至るまでの患者の状態とそれに対して都度提供されてきた医療行為、その根拠となる検査結果や医師の判断などが経時的に記録されています。そのため医療現場において判断や決定を行う際に非常に大きな役割を担います。
2)保険請求の根拠となるため
カルテは保険請求の際の根拠になり、そのための妥当性を判断する根拠として重要になります。記載されていないことは「やっていない」と判断されるうえ、不完全なことがあれば診療報酬の返還などにつながってしまう可能性もあります。
3)法律上の義務
医師法第24条1項では、「医師は診療をしたときは遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならない」と定められており、カルテの作成が義務付けられています。
医療事故や訴訟が起こった際にはこの診療録が証拠として採用されるなど、とても重要な公的記録となります。
これらの目的以外にも医学教育の場においては臨床参加型実習で用いる際の資料になるなど、カルテは教育的観点、学術的観点、経営判断などを行うための統計資料として役立つ大切な文書といえるでしょう。
カルテの記載内容
カルテの記載内容は、医師法の中で以下4点については必須事項と定められています。
1)診療者の氏名・性別・年齢・住所
2)病名や主な症状
3)治療方法(処方や処置)
4)診療の年月日
一般的なカルテの場合はこれらに加え、以下の項目のような詳細情報を記録します。
・現病歴(現症)や身体所見
・既往歴
・家族歴
・社会歴
・嗜好
・アレルギー
・検査
・入院後経過
カルテの様式
カルテは「保険医療機関及び保険医療養担当規則」において書式が決められており、以下の3つに分けられています。
・様式第一号(一)の1
・様式第一号(一)の2
・様式第一号(一)の3
参考画像
(出典:東京都医師会 令和2年度医療保険事務講習会資料より)
▼様式第一号(一)の1
こちらはカルテの表紙にあたるページで、先述した“必須事項と定められている内容”を記載します。
ここに記載される内容については組み替えは可能ですが、一部分をなくすなどの変更はできません。したがって書式を独自に作る際は、地方厚生局に相談する必要があります。
▼様式第一号(一)の2
いわゆる「二号用紙」と呼ばれるもので、日々の診療内容や施術内容を記載します。
「SOAP」と呼ばれる方法での記載が一般的です。
ーS:「Subject」
患者様の主訴などから得られた主観的なデータ
ーO:「Object」
診察や検査などの所見、客観的なデータ
ーA:「Assessment」
主観的なデータ・客観的なデータに対する分析・考察・評価など
ーP:「Plan」
治療方針・治療計画
近年では、この記録法にフォーカスチャーティングや多職種連携の気付きや介入を入れた「F-SOAIP」という記録方法も出てきています。
▼様式第一号(一)の3
いわゆる「裏書」とされるもの。診療内容を記載し、診療報酬を算定・請求する際に必要な点数を計算するページで、会計カードとも呼ばれています。
一部負担金の徴収義務があるため、ここで正しく計算されているかや徴収されているかを見るためのものですが、レセプトコンピュータが導入されるようになってからはそちらに移行されている医療機関も多いでしょう。
厚生局によっては、適時調査の指摘項目に上がってきているところもありますが、「レセコンから日々の点数が随時出せる状態であれば不要」という回答をもらっている医療機関も。業務の見直しなどの際に、厚生局に確認してみても良いかもしれません。
カルテの保存期間
カルテやその他の書類には、以下のように数年間の保存義務があります。
▼療養担当規則第9条
保険医療機関は、療養の給付の担当に関する帳簿及び書類その他の記録をその完結日から3年間保存しなければならない。ただし、患者の診療録にあってはその完結の日から5年間とする。ただし患者の診療録に関してはその完結の日から5年間とする。
この場合の“完結の日”とは、診療の転帰が治癒・死亡・中止とされ診療が終了した日となります。また“その他の記録”とは、検査記録やエックス線画像などになります。
▼自由診療の診療録
保険診療と同様に5年間保存、その他の記録は2年間保存することとなっています。(医療法第21条第1項第9号、医療法施行規則第20条第10号)。
この法が、医療機関で保険のカルテと自費カルテ(自賠責など)が分けられる根拠になっています。なお、医療事故による時効は20年であることにも注意が必要です。
カルテは医療機関や患者にとって重要なツール
ここまでカルテの基本についておさらいしました。
毎日のように触れるカルテの一つひとつが日本の医療を支えており、これらのクオリティが日本の高度で高品質な医療提供体制・保険医療制度を成り立たせていると言っても過言ではありません。
その目的やルールを振り返ることで、カルテが医療機関や患者にとって重要な存在であることを再確認できたのではないでしょうか?
カルテを管理する際は、大切な公的文書であることを念頭に置いて注意深く取り扱いましょう。
電子カルテの詳細や紙カルテとの違いなどをくわしく知りたい方はこちらの記事も参考にしてみてください。
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