近年、医療機関で問題となっている医療費の未収問題ですが、特に気をつけたいのが病院側に落ち度がある場合です。例えば自己負担となる検査費用などの金額を病院側が予め患者に伝えてなかった場合、患者が支払わずに未収のトラブルになるケースも。そこで今回は支払い拒否が起こってしまうケースなどの具体例と対策をご紹介します。
目次
医療費未払いのパターンはさまざま
医療費の未払いや支払い拒否には以下のようにさまざまな理由が考えられます。
入院医療費の未払い
急な入院を要する場合などで、支払能力がないという理由が多くの割合を占めます。
定期通院患者の外来医療費の未払い
保険証を確認できないまま外来受診を継続し、未払いの患者負担金が累積してしまうパターンです。
夜間・休日受診の患者負担金の未払い
夜間や休日は救急の場合が多いため治療費を計算せずに預り金で処理するケースも多く、その場合は清算未了の間、未収金として残ることがあります。
緊急受診による未払い
緊急受診だったために身元確認が不十分、または住所等の連絡先が不明瞭で、後日連絡が取れなくなり未収債権になることもあり得ます。
その他のケース
窓口会計で患者自身が思っていた以上に診療費が嵩んだ場合など「支払い拒否」となり未収になるケースがあります。
窓口会計での支払い拒否が発生するケース
前述した医療費未払いに加え、病院側が自己負担になる医療費や検査費用を予め患者に伝えられていなかった場合などは診療後にトラブルが発生しやすく、支払い拒否になるケースがあります。
また支払い能力があるのにも関わらず、医療費に納得がいかないなどの理由で支払い拒否をされることもあります。この場合、病院側は医療費が支払われるまで患者を追わなければなりません。これは医療費が成功報酬ではないため、患者自身が受診を申込み、医療機関がこれに応じて医療サービスの提供(診療や検査など)を行った場合に患者の意向に関わらず費用を支払う義務が発生してしまうためです。医療従事者なら知っていて当たり前ですが、医療費は病気やケガが治らないからといって患者の支払い義務が免除されるものではありません。
これらの窓口会計での支払い拒否トラブルの大きな要因は、自己負担が発生する場合でも病院側が先に金額を患者に告知しなければならない義務がないためといえます。しかし実際の医療現場では、医療費を予め患者に伝えられないケースが多く見受けられます。
嵩む医療費を患者に伝えられない理由
保険診療ではおさまらずに自己負担が嵩んでしまった医療費を予め患者に伝えられない大きな理由は、診療の中で医師と患者が口頭で検査実施などを進めてしまうことにあります。医師が診療中に会計に関して触れることはほとんどないので、直接患者に自己負担の旨は伝えませんし、看護師も気付かないことが多いのです。
トラブルになるくらいなら自己負担が発生する場合などは、どうにかして患者さんに先に了承を得たいですね。
先に検査をしてしまうから、その場で医事課に「金額を教えて」と尋ねる余裕がないのよね。
その金額は後で医事課へ聞いてきたりはするけど、自己負担が発生することに関してはノータッチなことが多いのが現状よ。
結局、会計関連のトラブル対応は私たちに回ってくるってことを覚えておいた方がいいわ。
窓口会計での支払い拒否を防ぐためには
検査や治療の自己負担金の発生により嵩んでしまう医療費は決して病院側に非があるわけではありませんが、予めおおよその医療費をきちんと患者に伝えておき、了承を得た上で診療をすれば支払い拒否を防げることが多いでしょう。たとえ診療中に自己負担項目の実施が決定した場合も同じですが、実際の医療現場では患者の人数が多いなどで患者に金額を伝える余裕がないという現状があります。
しかし「余裕がない」という理由は病院側の言い訳に過ぎないので、医師・看護師・医療事務が自己負担の項目を把握しておき、かかる費用をどのタイミングで誰が患者に伝えるかを決めておくなどの対策をとることが必要となります。
うちのクリニックでも、自費が発生するときのみ自費同意書を作成して患者さんへ署名してもらうという形で予め了承を得ていますよね。
そうね。うちのクリニックでも実施している自費同意書の作成は、実はとっても重要なことなのよ。
ほかにも、国が認めている特定療養費とかは院内掲示して、きちんと同意書をもらっているわ。日本では法律で混合診療禁止(※)となっているから、色々と大変なのよね。
※混合診療・・・厚生労働省が承認した公的医療保険適用の保険診療に、保険がきかない未承認の薬や治療法を用いた自由診療を併用すること
どんな患者でも診療拒否はできない
医療機関での診療は命に関わるケースがあったり厚生労働省によって「応召義務」が定められていたりするため、たとえ以前に医療費の未払いがあった患者など医療費の支払いが期待できない患者が診療に来た場合でも診療を拒否することはできません。
ただし「支払能力があるにもかかわらず悪意を持ってあえて支払わない場合等には、診療しないことが正当化される」とされているため、そのような患者を見極めて対応する必要があるでしょう。そのためにも日頃から患者と真摯に向き合っていくことが重要だといえます。
※応召義務・・・「診療に従事する医師は、診察治療の求めがあった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」と定められている法律(医師法19条1項)
まとめ
患者が悪意を持って支払い拒否をした場合は診療を拒否することが許されるものの、病院側としては診療を拒否すること自体は本望ではないでしょう。このようなトラブルを避けるためにも、費用が嵩みそうな場合は予め正しい医療費を患者に伝え、本人の了承を得た上で診察や治療、検査を行うことが非常に大切です。そのためにも日頃から医師や看護師、医療事務の院内の連携を円滑にしておくことが好ましいといえます。
実際、コメディカル部門は保険点数とか自費とかを考えずに患者に検査を勧めることもあるわ。