医療事務の窓口業務【患者対応の基本】

医療事務として働くうえでは、不可欠ともいえる患者対応のスキル。ひと口に患者対応といっても種類はさまざまなので、この記事では実際の業務ではどのようなシーンで患者の応対が必要になるのか、またその対応の流れなど、医療事務の窓口業務・患者対応の基本などについて紹介していきます。

医療事務への転職を考えている方やまだ医療事務になりたての方でも分かりやすいようにくわしく説明していくので、ぜひ参考にしてみてください。

目次

主な患者対応の種類

主な患者対応としてあげられるのは、以下の4つです。

受診対応

新患・初診と再診で業務工程は多少異なりますが、病院に来た患者の受付や診察室までのご案内をします。

健診対応

医療事務は健康診断や特定健診などの対応を求められることもあります。
◎健康診断:従業員として雇用されるときに受ける法定健診など
◎特定健診:区・市が行っている検診(大腸がん検診・乳がん検診)
※区民健康診断や区がん検診を区の集団会場やクリニックで受診することができる。

予防接種対応

コロナ・インフルエンザ・麻疹風疹混合ワクチン・破傷風など、各種予防接種を行う際に患者の受付、ご案内をします。

発熱外来対応

発熱・咳・鼻水・のどの痛みなど、風邪のような症状がみられる患者に対しては通常の診察室ではなく、個別に設置されたスペースでの診察をご案内します。

※発熱外来で取り扱う代表的な症状としては、コロナやインフルエンザなど。

それぞれどのような工程があるのか、詳しくみていきましょう。

患者対応の基本

1)受診対応

【新患・初診】

はじめて病院を訪れる方は、以下のような手順でご案内します。

▼検温

来院いただいた時点の体温を測定します。

▼問診票記入

どのような症状が見られるか、これまでの既往歴、服薬内容など診察に必要な項目を記入してもらいます。

来院した患者には基本的には必ず問診票を記入してもらいますが、なかには以下のように臨機応変な対応が必要になるケースもあります。
・患者の体調が悪く、記入ができないほどつらそうな場合は側に付き添い、椅子やベットなどで休むようにご案内。直接聞き取りをして看護師に対応してもらうよう手配する・耳が不自由な人には筆談や手話などで対応する・子供の場合は親の同席を求める・日本語の話せない外国人へは外国人用問診票を用意。ポケトークなどの多国語通話変換デバイスで対応するなど

▼保険証確認

マイナンバー対応端末機を経由して、保険証番号など必要な情報を電子カルテに登録します。

保険証の種類は大きく分けて3つ。・社会保険・国民健康保険・後期高齢者医療制度※これらの情報を元に診察券の発行や医師への基本情報の作成を行う
保険証確認は市町村や保険組合の指導により、義務付けられている仕事です。患者の職業によってさまざまな種類があり、それにより患者の医療費の負担額も異なるので、受付ではきちんと確認することが重要になります。はじめはパターンの多さに戸惑うかもしれませんが、まずは焦らず必要な情報を確認しましょう。
保険証確認の作業に関しては、マイナ保険証の完全普及により手間やミスの度合いにかなり変化が生じるとされています。くわしくは以下の記事を参考にしてみてください。
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▼患者情報登録

氏名・生年月日・住所・性別・連絡先など、必要な情報を電子カルテに入力します

▼ご案内

受付が済んだら順番まで待つように伝え、順番が来たら診察室にご案内します。

【再診】

例えば月に一度程度、同じ症状で定期的に薬をもらいに通院している場合などを「再診」といいます。

受付登録

受付のため、窓口に診察券を提出してもらいます。窓口ではなく受付付近にある再来受付機にて患者本人に診察券登録をしてもらったり、診察券の提出とともに受付票などを取得してもらう必要があったりなど、病院によってさまざまなケースがあります。

保険証確認

基本的に保険証の確認は月1回です。再診の場合は保険証の変更がないか、提示いただいた保険証がまだ有効なのかなどを確認します。

診察券確認

受付にて診察券をお預かりしたら診察券に印字されている番号(※)を見て受付登録をします。その後、保管されているカルテを探して診療内容や患者の診療目的などを把握し、受付した順に診察室に持っていきます。

※番号=患者ID=カルテ番号

少し前までは診察券をボックスに入れて受付が完了というケースもありましたが、順番通りに手配できない可能性や個人情報保護などの観点から現在ではあまり見られません。

ご案内

受付が済んだら順番まで待つよう患者に指示し、順番が来たら診察室までご案内します。この際、総合病院では受診する診療料までの案内などを任されることもあります。

2)健診対応

健診対応とは自身の健康状態を確認し、病気を予防することを目的とした、いわゆる「健康診断」の際に行う患者対応のことです。

受付登録

患者からの問い合わせに対応し、健診内容や予約時間を入力して管理を行います。健診は予約がほとんどで事前に健診カルテを準備しているため、基本的に健診当日、改めて氏名・生年月日・性別・住所などの患者情報の登録をする必要はありません。

健診問診票記入

主に、病気や治療でどんな薬を服用しているか、また生活習慣の状況などの質問項目に回答してもらいます。

例:脳卒中や心臓病などにかかっていたり薬を服用していたり高血圧や糖尿病の治療の有無、体重が増えているか喫煙歴やお酒の飲む量・頻度など。

保険証確認

マイナンバー対応端末機を経由して、保険証番号など必要な情報を電子カルテに登録します。

ご案内

受付が済んだら順番まで待つよう来院者に指示し、順番がきたら診察室にご案内します。この際、身長体重腹囲の測定補助や各検査の案内、手順の説明や補助なども行うことがあります。

以下のように、健診によっては別途対応が必要な場合もあります。・大腸がん検診の場合、検便容器を渡して後日持ってきてもらう必要がある・胃がん検診は内視鏡検査や胃のレントゲンの予約日の受付や当日の必要な予診票の確認をする・区の検診は、予診票は一カ月分まとめて翌月初旬に各区へ結果報告や請求を行う必要があるなど

3)予防接種対応

予防接種対応は文字通り、ワクチンの定期接種(※1)や任意接種(※2)の際に行う患者対応です。

※1:結核、ジフテリア、破傷風、百日咳、ポリオ、麻疹、風疹、日本脳炎、ヒブ(インフルエンザ菌b型)感染症、小児の肺炎球菌感染症、水痘、ヒトパピローマウイルス感染症、B型肝炎など、主に集団予防、重篤な疾患の予防に重点を置いた予防接種。国から積極的に勧奨されており、本人や保護者に努力義務のあるワクチン。
※2:季節性インフルエンザや高齢者の肺炎球菌感染症など、主に個人予防に重点を置いた予防接種。本人や保護者に努力義務がないワクチン。

▼検温

来院いただいた時点の体温を測定します。

予診票記入

予防接種については各予防接種に沿った予診票があり、その情報をもとに医師の診察のうえ接種可能か判断されます。氏名や生年月日などの基本的な情報、またこれまでの既往歴や服薬内容、何回目の予防接種か、これまでの接種時に副作用はなかったか、ほかの予防接種を打った日、妊娠の有無など必要な項目を漏れなく記入してもらいます。

受付登録

ご記入いただいた予約票の受け取りとともに受付を行います。受付の際は本人確認のため身分証をご提示いただき、記入内容と相違がないか確認します。

予約された患者と同一人物であるかが確認できれば、併せて予約票の内容をもとに電子カルテや紙カルテを作成します。

保険証登録

マイナンバー対応端末機を経由して、保険証番号など必要な情報を電子カルテに登録します。

ご案内

受付が済んだら順番まで待つよう来院者に指示し、順番が来たら診察室までご案内します。

4)発熱外来対応

新型コロナウイルスの感染が疑われる場合など、発熱がある方に対する患者対応です。

事前確認

事前に連絡いただいたお電話などで、来院者にマスク着用とアルコール消毒などの感染対策を依頼します。

検温

非接触型体温計を使用し、 同行者を含めて来院した時点の体温を測定します。

隔離室対応

発熱者(37.5℃以上の発熱)、新型コロナ感染疑似症者は個室に隔離します。
この際フェイスシールドや防護服などのPPE(※)を用いるなど、発熱などの感染流行症状の個別対応が必要になります。

※Personal protective equipmentの略。手袋、ガウン・エプロン、マスク、ゴーグル・フェイシールドなど個人防護具のこと。

診療までの説明

発熱外来の診察・検査までのひと通りの流れを説明します。

ご案内

直接的な接触を避けるためスクリーニングシートを活用し、隔離室での診察をご案内します。この際、医療機関によってはタブレット機器や画面モニターを用いた診療を行っているところもあります。

はるこさん

こうして見ると患者対応って覚えることがたくさんあったり、さまざまな点に配慮が必要だったり。正直ここまでしっかり対処できているか、自信がないかもしれません…。

さなみさん

たしかに患者対応は、ただ受付をしたり案内したりするだけと思われがちかもしれないわね…。

だけど通常の受診なのか、発熱外来のようなイレギュラーなパターンなのかで当たり前に作業工程は細かく変わるし、患者さんの事情によって臨機応変な対応が必要になる機会も多い仕事なのよ。

はるこさん

患者さんの事情って、例えばどんなケースがあるんですか?

さなみさん

うーん…

お金を忘れてしまったとか、保険証を忘れたりなくしてしまった、薬だけほしい、受診したことを身内の人には内緒にしてほしいとか、本当にさまざまなケースがあるわね。

はるこさん

なるほど…!

患者対応には色んなシーンを想定した対応力も必要なんですね!

さなみさん

そうね。

でも、ひとまずはじめは基本を正確にこなすことが大切よ!

それから分からないことは勝手に判断せず、先輩に指示を仰ぐこと。

それ以上のスキルを身につけるのは、基本ができてからでも遅くないわ。

患者対応において求められるスキル

医療機関ではちょっとしたミスが大きな問題につながることも考えられるので、このような場で働くうえで最も重要なのは「正確性」といえるでしょう。

そのうえで加えて備えておきたいスキルは「コミュニケーション力」「臨機応変な対応力」です。具体的にはどういうことなのかくわしく説明していきます。

【コミュニケーション力】

窓口の業務を担当するスタッフは、病院内の中心的存在といえます。というのも受付スタッフは来院者が医療機関を訪れて一番はじめに触れる存在であり、病院のイメージに大きな影響を与える可能性があるためです。スタッフの対応によって病院に対する印象が左右されるので、相手を思いやる気持ちややさしい表情、穏やかな言葉づかいなど常に来院する方に配慮したコミュニケーションをはかれることが求められています。

もちろん患者さまはお客さまと考えるべき、というわけではありません。しかし、私たち医療従事者にとっては日に何十、何百と相手をする大勢の患者の内のひとりでも、患者やそのご家族にとっては“二度とない機会かもしれない”ということを忘れないことが重要です。患者は医療機関を受診することで肉体的苦痛はもちろん、体の不調により不安になる気持ちなど精神的な苦痛を和らげたり取り除いてほしいと、藁をもすがる思いで訪れています。もちろん月に何度か訪れる方や軽い症状で訪れる方もいますが、誰に対しても毎度そういった意識で接する方が対応する側としても心持ちが良いですし、患者に満足感や勇気を与えることができ、信頼につながります。

患者の症状に対する要望や不安などを理解してやさしい対応や安心できるような声かけができるかどうかは、医療事務のコミュニケーション力にかかっています。患者やそのご家族の不安な気持ちを和らげられるよう、丁寧でやさしく、感じの良い対応を心がけましょう。

【臨機応変な対応力】

医療機関では、通常の業務から予期できないさまざまな出来事を含め、いつどこでどのようなことが起こるかわかりません。そのため、いつでもすぐに行き届いた行動、適切な対応ができる臨機応変さが必要になります。

ただし、このようなスキルは基本ができてはじめて身につくものです。どのようなケースにも上手く対応できるようになるためには何より経験が大事なので、はじめのうちはとにかく落ち着いて正確に仕事をこなすことが重要です。わからないこと、知らないことは自分なりの対応をする前に先輩スタッフに指示を仰ぎましょう。

患者にはその人それぞれの事情があり、病院内の基本に当てはめられるケースばかりではありません。そういった状況を一切汲みとらずにレギュラー対応ばかりしていると「この病院は困っている人に寄り添ってくれない」という印象を抱かせてしまう原因にもなりかねません。

逆にいえば、出来るかぎり患者に寄り添った提案や判断ができる姿勢を持つことが、病院の信頼につながるということです。何でも言うことを聞けばいいというわけではありませんが、患者やそのご家族の信頼を得るためにも柔軟な対応ができるよう心がけたいところです。

誰もが気持ちよく通える病院づくりは患者対応から

どのような要件で医療機関に訪れているかによって適切な対応は細かく異なります。ただし、どの対応においても必要なのは患者さんに寄り添う気持ちやあたたかい表情でのやさしい対応、そして正確な仕事です。慣れないうちは先輩スタッフに教わったことをメモに書き取るなどして、まず適切な対応を覚えることが重要です。

一度習ったけど不安だな…と思うようなことは「このように対応して大丈夫ですか?」など簡単に事前確認を行うとよいでしょう。このような地道な作業の反復で、いかなるタイミングでも臨機応変に対応できるスキルなどが自然と身についていくはずです。

まだ医療事務になりたてという方も新人さん教育に活用したい方にも、入門編としてこの記事を役立てていただきたいです。